「泊まるって…」

雪穂は驚いて店主を見る。

「こん人と朝まで語り合おう、思うてな」

笑いながら店主が言う。
俺にとっては笑い事じゃないんだけど…

「雪穂。お前、飯は?」

「済ませた…」

「そげか。ほんなら何しに来た?」

「…それは…」

「ほんのこと、お前も気になっとんの違うんか?」

「違うわよ!…店の前を通ったら…まだ灯りがついてたから…」

「こん人がまだおる、思うたか?」

「おじさん!いい加減にしてよ!…からかわないで…」

「からかってなんかねわや。お前が素直じゃないけん、ワシがフォローしとんのやろが」

「フォローって…。おじさんには関係ないでしょ?あたしのことはほっといて!」

「雪穂…。ワシはな。お前の親父さんにはえらい世話になった。その親父さんに恩返しするのは当たり前だ」

「そんなことしなくていいわよ…。ここで色々食べさせてもらえる、それだけでも充分なんだから…」

「ほんならお前はずっとこのまま一生生きてくんか?いつまでも過去を引き摺ってそげん暗い顔して?」

「……」

彼女は黙り込んだ。
店主の言ったことは、誰でもない彼女自身が痛感している様子だった。

俺はそんな彼女を見ていられず。
横から二人の会話に割って入った。