「こんばんは」

俺は翌日、定時に仕事を終わらせると一目散に店までやってきた。

「おう。約束どおり今夜は貸し切りだ。好きなだけ食っていいぞ」

正直昨夜彼女に啖呵を切られて食欲はない。

「雪穂さんに…行かないと言われました…」

「え?…そげか…。アイツも顔に似合わずきこだけんのぉ」

「は?」

店主の方言が理解できずに聞き返す。

「あぁ…悪いな。つい訛りが出てまって…。きこ、ちゅうんは頑固いう意味での」

頑固。
確かにそうだ。

でもそれすらも可愛くて仕方ない。

「唐突過ぎたので、そう言われるのも無理はありません」

「で?アンタ、雪穂が来んでもおる気か?」

「店長さんがいいと言ってくださるなら…食事しながら待たせてもらえませんか?」

「ワシは端からそのつもりだったけん。ええが」

「ありがとうございます」

店主は俺の気持ちを労うように渾身の料理を次々と出してくれる。

柱時計が午後八時を告げる。

「いつもならこん時間には来る」

店主がそう言ったが、それから三十分経っても、一時間経っても彼女は現れなかった。

「ほんに来らん気かいな…」

店主はポツリと呟いた。

「あの…こちらは何時まで大丈夫でしょうか?閉店は十時でしたよね?」