「知られたならもういいです…」

彼女はスタスタを歩き出す。
ヤバい。怒らせてしまった。
初っぱなから旗色が悪いな…。
でもまだまだこれからだ。

俺は彼女の少し後ろを歩く。

曲がり角から数キロでアパートに着いた。

「ありがとう…ございました」

「おやすみなさい…。また…明日…」

俺はそう言って踵を返した。

「ほんとに…明日来るんですか?」

「え?」

振り向いて彼女を見る。
怒りに更なる火を注いでしまったのだろうか?

「行きます」

「私、行かないかもしれませんよ?」

ハッとした。
そういう可能性をまったく考えていなかった。
勝手に彼女も来ると決めつけていた。

彼女にとって、俺はそこまでしなくてもいい人間だ。
いくらあの店主に言われたからといっても、来る義務などないのだ。

「お待ちして…います」

「行きません」

「俺が勝手に待ちたいんです。どうするかは雪穂さんが決めて下さい」

「だから、行きませんって」

俺は彼女に微笑みだけ残し、再び背を向ける。

曲がり角まで来たところで振り返る。
彼女が無事にアパートに戻ったかを確認するため…

すでに彼女の姿はなかった。
安堵しながら帰路につく。

明日…
店主が時間を許してくれる限り待つ。
そう、胸に誓った。