「だから…俺じゃない誰かを…好きになったのか?」

「そうね。そう言ったら別れてくれる?」

どこまでも上からな態度を崩さない彼女に辟易しながらも、みっともない未練が断ち切れない。

「ソイツは…君の言う中身のある男なのか?」

彼女は一瞬息を呑んだ。そして静かに言った。

「少なくとも…あなたよりは…尊敬できるわ」

圧倒的に俺をどん底まで突き落してくれるな…。
尊敬できない男についていく女はいない。
そんなことは俺にだってわかる。

あの…自由奔放な母親と姉ですら。それぞれの伴侶が尊敬できる存在なのだから。
その存在がある以上、破天荒な真似はしていないのだから…。

尊敬できないという屈辱的な言葉を投げられた以上、俺に残された選択肢はひとつしかない。

「わかった…。今までありがとう…」

「謝るつもりはないわ。でも…楽しいときもあったから…お礼だけは言わせて。ありがとう」

そして彼女と俺との縁は切れた。
一年にも満たない短い付き合いだった。
だが俺にとっては。
初めて自分から欲した存在であったのは間違いない。

その貴重な存在である彼女と別れることが。
これからの俺にどういう影響をもたらすのか。
なんとなく予想はできるがそれを認めたくないという最後のプライドが、なんとか俺を支えていた。