すぐに恋人になって欲しいなんて言えない。
愚痴でもいい。
弱音でもいい。
まずはこの店主以外で彼女が心を許せる存在になれたら。
彼女の心の支えになれたら。
他の人より少しだけ。
俺には感情をぶつけてくれれば。
今はそれだけでも充分だった。

「とりあえず友達から始めたらどげだ?」

店主がなんとも時代遅れなセリフを吐く。

でも…それもあり、かもしれない。
少なくとも今の関係より何歩も前進している。

「お友達って…」

「雪穂はこっちに友達がおらんが?まずは加賀見さんに友達になってもらったらええ」

「そんな…」

「男友達は嫌か?」

「そういうわけじゃ…」

彼女と店主のやりとりを聞いて、このままでは埒が明かないと思った。

「雪穂さん…無理強いするつもりはないんです。どうしても嫌なら潔く諦めます」

「え?諦めるんか?」

店主に誓った言葉と正反対のことを言ったから、驚かれても無理はない。
でも苦しむ彼女は見たくないから。

「諦めないと言いましたけど…本気で嫌なら仕方ありません…」

「雪穂…。嫌なんじゃないだろ?怖いんだろが。また…裏切られるんが…」

「おじさん!」

「とにかく、だ。今夜はもう遅いけん。帰って考えろ。それから…明日もいっぺんここに来い。明日は貸し切りにするけん」