「え…っと…」

「あ！急でしたね！また…後日でも構いません。よかったらその…連絡先を教えてもらえませんか？」

「あの…ビックリして頭がついていかなくて…」

それはそうだろう。
少しだけ顔見知りな程度の男にいきなりそんなことを言われたんだから。
でも俺は…
このままサヨナラするつもりはない。
少なくとも次の、今後の機会を作る努力をしたい。

「あの…とりあえずおじさんのお店に行ってもいいですか？十時が閉店なので…」

「あ…もしかして…夕食はまだ？」

「はい…。今日は残業で遅くなってしまって…」

ついてる。
咄嗟にそう…思った。

「ご一緒してもいいですか？」

彼女はすぐに返事をしなかった。
が、俺もこれで諦める気はない。

「わかりました…。どうぞ…」

「ありがとうございます…」

そして二人で店まで歩き始めた。
終始無言だったが、俺は隣に彼女がいてくれる、それだけで充分満たされていた。

引き戸を開け彼女が店主に声をかける。

「おぅ、雪穂。今夜は遅かったな」

後ろから再び入ってきた俺に気付き、目を丸くしている。

「あれ…アンタ…」

「近くでバッタリ会いました」

極上の笑顔で言うと、店主は少しだけ口角を上げた。