結局夜の十時ごろまで待って、俺は店を出た。
落胆を隠せない。
彼女は毎日来るのではないそうだが、どこかで期待していたから…。

ダメだ。
これぐらいでめげてどうする。
まだ始まったばかりじゃないか。

時間をかけてゆっくり彼女の心を解していく。
そう…決めただろ?

俺は自分に言い聞かせ、気持ちも新たに翌日もまた店に行こうと思っていた。

たが、翌日もそのまた翌日も。
彼女は店に現れなかった。

俺を避けてる?
一瞬そんな情けない思考に傾きかける。

そんな俺の心情を察したのか、店主が言った。

「加賀見さん。毎晩通うのは大変だが?さすがにワシもアンタが気の毒での…。雪穂が来たら連絡しちゃるけん、そっから来ればええ」

それは誠に有難い。
有難いんだが…
そこまで甘えていいものだろうか?
店主は俺の決意のほどを見るはずだ。
それなのにたった一週間やそこらで助けを借りるだなんて。

「でも…俺が一人でやらなきゃ意味がありません。店長さんのお力を借りるのは…」

「加賀見さんよ。世の中、持ちつ持たれつだ。アンタの気持ちは本物だとワシは思う。目を見ればな…大体わかるんよ。アンタが本気で雪穂に惚れとるのはわかったけん」

店主の温かい言葉にホロリとなりかける。
だが泣いている場合じゃない。