彼女に会えるとすればあの店しかない。
だとしても、毎晩通うのはかえって彼女が脅える可能性がある。
連絡先くらい聞いておけばよかった…。
いやいや!
こういう危機的な状況の中でやらなきゃ俺の本気が伝わらない。
彼女が脅えない程度に店に出没するか…。

鉄は熱いうちに打たないとダメだ。

俺は翌晩も店に出向いた。

「いらっしゃい…。あぁ、ほんにまた来たんか…」

店主が半ば呆れたように言った。

「当たり前じゃないですか」

「雪穂は来とらんぞ。もしかしたら今夜は来らんかもなぁ」

軽くショックなセリフをさらりと言いやがる…。
でもいい。
とにかく今俺にできうる限界までやるんだ。

「とりあえず何かください。腹が減っては戦はできませんから」

「ビールもか?」

「いえ…。今日はアルコールは控えます…」

「そげか…。ほんならガッツリ食うか?」

「お願いします」

俺はカウンターに腰掛けて店主の出してくれる料理を次々と平らげていった。
彼女のことを抜きにしても、ここの料理は旨い。それだけでも来る価値は充分にある。

食べながらも時折入り口の引き戸が開く度にそちらに目をやる。

なかなか本命が現れない。
やっぱり店主の言ったとおり今夜は来ないかもな…。