当たって砕けろ、か。
過去にそんなことをしただろうかと記憶を辿る。

ない…な。
何事も去るもの追わず来るもの拒まずだった。
啓子との別れのときでさえ。
ちっぽけなプライドが邪魔をして追い縋らなかった。
だがあのときは…
たとえそうしたとしても彼女の気持ちは変わらなかっただろう。
逆により一層冷めるだろうことは想像に容易い。

では、雪穂はどうなんだ。
店主の話を聞いて萎えるどころか想いに火がついてしまった。

それは俺に靡かない彼女をなんとかして自分のモノにしたいというのでは、断じてない。
苦しんでいる彼女を俺がこの手で救いたいんだ。
過去にどれほどの事情があるか、まったく無知であるにも関わらず。
彼女を救えるという確信もないのに。
不思議と俺はやめようとは思わない。

これが俗にいう「運命」なのかもしれない。
いや、運命ではなく、「宿命」だ。
俺は彼女に出逢い、共に生きていくことが前世から決まっているんだ。

かなり身勝手かもしれないが、自分でも信じられないほどのこの熱い想いを説明するにはそれしかないから…。

宿命なら抗いようはない。
たとえこれが宿命でなくとも。
俺が彼女の心を手繰り寄せてみせる。

そして苦しみから…
解き放ってやる。