店主は言葉を発することなく、カウンターの中へ入った。
そして一枚の紙切れを右手に持って出てきた。

「これはワシの名刺だ…。携帯の番号が書いてあるから…なんかあったらいつでも連絡してこい」

「え…」

「いらんのか?いらんならええわ」

「いえっ!いります!ください!お願いしますっ!」

「ハハ…。そげん必死にならんでもやるがな。…でもまぁ…アンタなら…できるかもしれんな…。雪穂も…あの土地も…変えられるかもしれん…」

あの土地?

「あの…」

「いや、詳しいことはワシの口からはな。雪穂が話していいと思えばあの子から言うだろ。それよりもまず、あの子の気持ちがアンタに向くかだ。それがなけねゃ、元も子もねぇわな」

それは…
当然、最初の第一歩だ。
まずは彼女の気持ちを俺に向ける。
そうじゃなきゃ何も始まらない。

「頑張ります。誠心誠意、彼女に思いをぶつけてみます」

「そげだの…。雪穂は簡単には落ちんぞ。ちょっとくらいイケメンでも関係ねぇけんの」

またイケメン…。
俺の中ではその言葉は誉め言葉ではなくて。
自己嫌悪に陥る言葉でしかないんだが。

「イケメンだとは思ってません。見た目ではなく…中身が伴ってこそ、本当のイケメンだと思いますから…。俺はまだまだ未熟者です。でも雪穂さんへの気持ちだけは…自信があります。どんなに難しいとしても俺は…絶対に諦めません。彼女が本気で俺を拒否するなら別ですが…」