「今日は?」

「うーん…そうだね…。久しぶりにお肉が食べたいなぁ…」

「肉か。牛肉だったらええのがあるが」

「でも高いでしょ?」

「雪穂は特別だけん。安うしとくが」

「ほんと?じゃあお願いします。ごはんもいい?」

「肉にはごはんがええかもしれんが、今日は蕎麦がああけんの」

「蕎麦?…もしかして…地元の?」

「当たり前だわの。蕎麦いうたらそれしかねわや」

「食べたい!割子(わりご)よね?」

「そげだわや。温蕎麦(ぬくそば)よりそっちのが好きだが?」

「そうだね」

時折方言が混じってはいるが、内容はちゃんと掴める。
それにしても彼女はなんと気さくに話すのだろう。
やはり同郷のよしみなのか、心を許している様子が伺える。
まさか店主に恋愛感情など抱いてはいないと思うが。
俺には見せない素顔を見せているのが面白くない。

俺はわざとらしくカウンターへ向かった。

「あの、お手洗いはどちらですか?」

二人の和やかな雰囲気の中に割って入った。

俺の声に驚いて彼女が振り向く。

「あっ…加賀見さん…」

「あ…中上さん、いらしてたんですか」

さも今気がついたように言う。

「会社の同僚とお邪魔しています。先日食べたこちらの味が忘れられなくて」

「そう…なんですか…」

彼女はさっきまで店主と話していたときの表情よりも堅くなっていた。