店主がお任せの料理を次々と運んで来る。

刺身は烏賊。
透き通るような烏賊なんて初めて見た。
そして鱸の奉書焼き。

「すげぇ…。この烏賊、ほとんど透明ですね」

折原も初体験なのか、不思議そうに見ている。
食べてみるとその甘さに驚いた。

「うま…。加賀見さん、ここってほんとに和食ばっかですよね?確かに旨いけど、ワインの勉強のために店を選んでた加賀見さんにしては珍しいですね」

グッ…
思わず喉に詰まりかけるような折原の発言だった。

「まぁ…それは…。たまには違う店もね。やはり日本人ですから和食も食べたくなりますし」

「ふーん…」

意味ありげな視線に捕らわれないよう注意しながら食べていると、店主がやってきた。

「〆には蕎麦を出そうかと思いますが、アレルギーとか、ありませんか?」

蕎麦か。
俺は大丈夫だが折原は…と思っていると、本人が大丈夫だと店主に告げた。

店主が部屋を出たあと、俺は折原に言った。

「すみません。ちょっとトイレに…」

「あ、はい」

襖を開け店主にトイレの場所を聞こうとカウンターのほうを覗くと。

そこには彼女がいた…。

カウンターの席に座り、店主と談笑している。

俺は店主に声を掛けるのをやめ、二人の会話に聞き耳を立てた。