話しているうち店に到着した。

「居酒屋…ですか?」

「はい」

折原が不思議に思うのも無理はない。
今まで俺が行く店はワインが置いてあるのが大前提だったから。
居酒屋に俺の舌を唸らせるワインがないと思ってもおかしくない。

でも俺は…
そんな自分の拘りをかなぐり捨ててでも。
彼女に会えるかもしれないという万にひとつの可能性に賭けたかった。

ガラガラと引き戸を開ける。

「いらっしゃい」

聞き覚えのある店主の声で迎えられた。

「こんばんは」

「あっ…。あなたは…」

「また来ちゃいました。先日のお料理の味が忘れられなくて」

笑顔で出た言葉に嘘偽りはなかった。

「今日は…雪…」

店主の言葉をすぐに遮る。

「今日は職場の同僚と」

「あっ…そうですか…」

「あの席、宜しいですか?」

「…どうぞ」

俺は折原と共に先日使わせてもらった座敷に上がった。

「なんかすごく時代を感じる店ですねぇ。加賀見さん、こういう店もストライクゾーンとは驚きですよ」

「俺も最初は戸惑いましたけどね。とにかく料理がおいしくて。多分折原さんも食べた事のないようなものが出てきますよ」

「え?居酒屋だから当たり前にどこにでもあるヤツじゃないんですか?」

「一風変わったものが出てきます」

「へぇ…」