約束通り定時を過ぎたころに折原が俺の課にやってきた。

「じゃあ、行きましょうか。今夜はどんなお店なんです?」

早速きたな…。

「ちょっと離れた場所なんですけど、なかなかのものを出すお店なんです。接待で一度行ったんですよ。あの店の料理がまた食べたくて。そこでもいいですか?」

「もちろん、加賀見さんにお任せします。こちらもお願い聞いて貰いたいんで」

「そんなに難しいお願いなんですか?」

「まぁ加賀見さんならお茶の子サイサイだと思いますよ?」

電車で移動すると、折原は降りる駅名を見て驚いていた。
やっぱりそう、だよな。

「えらく離れた場所ですね」

「私の得意先が数件あるんです。一ヶ月に一度は訪問しているんですよ」

「へぇ…こんなに遠くまで…。たいへんですね」

「労力を惜しんだら取れるものも取れないでしょう?」

「それは…そうですけど…」

「遠方に足しげく通うと信頼感が上がります。わざわざ来てくれたというだけで顧客の印象はよくなって、他社よりもうちに多く発注してくれたりします」

「確かに…」

「折原さんは遠方の顧客をお持ちではないのですか?」

「はい…。俺は全部都内の、比較的うちの近くがほとんどです」

「一件くらい遠方の顧客をまわしてもらったらどうでしょう?誠意を尽くせば上得意になるかもしれませんよ」