コイツは意外と勘がいい。
些細な変化も見逃さないハンターのようなところがある。
気を引き締めておかないと。

「ところでお願いとは?」

「それなんですけど…。今夜あたり飯でも食いながら、どうですか?」

久しぶりにコイツと飯も悪くない。
どうせ一人で自宅にいても彼女のことを考えてしまうだろう。

「わかりました。恐らく定時に上がれると思うので」

「じゃあまた、今夜」

折原は軽く右手を上げ、自分の課に戻って行った。

彼女は今日も仕事のはずだ。
もしかしたら帰りにあの店に寄るかもしれない。

あ…
気付けば彼女のことばかりだ…。

さすがにあの店は遠すぎて、折原と行くのはマズイか…。

でも…
彼女に会えるかもしれないという期待をどうしても譲れない。
どうせ店はいつも俺が決めているんだから、折原も了解してくれるだろう。
もしアイツが疑問を呈したとしても、得意先の接待で使ったとでも言えばいい。
実際あそこの料理は絶品だったし、アイツも気に入ってくれるだろう。

俺はそう結論付ける。
どこかしらワクワクしている自分に嘲笑したが、こんな気持ちを再び抱けたのはむしろありがたい。

俺の人生に女はいらないと、あれほど豪語していたにも関わらず、だ。