君はまるで雪のように

頑なに言い張る彼女は俺に自宅を知られたくないのだろう。
普通なら…
そうなんだろうな。
ほとんど知りもしない男なんだから。

胸に感じた微かな痛みを打ち消して、俺は言った。

「わかりました…。でも…気をつけてくださいね」

「はい…。ありがとうございました…」

会釈をして立ち去る彼女の背中を見送る。
途中振り向いて柔らかい笑顔を見せられた。

なんでこう…
いちいちツボにハマるんだろう。
第一印象がよくなかっただけに、その後の彼女の印象はうなぎ登りによくなっている。

気がつけば彼女の姿は見えなくなっていた。
名残惜しいが俺も帰ろう。
そう思ったのに。
なぜか足は駅ではなく、彼女が歩いていった方向へと向いた。

この角を曲がったな…。
辿り着いた先に見えたのは大きな邸宅の中にひっそりと佇む集合住宅。
見るからに古そうな、お世辞にも綺麗とは言えない代物だ。

まさかここ、か?
ここ以外に集合住宅はない。
他の家々は皆、一戸建てだ。
もちろん彼女が一戸建てに住んでいる可能性だってゼロじゃない。
でも俺の直感で、彼女はこの集合住宅に住んでいると思われた。
あの、派手さのない、慎ましやかな風情がそう思わせてしまうんだ。

うろついていると不審者だと思われ兼ねないが、俺はどうしてもそこから立ち去れないでいる。

彼女と語らった時間。
あのときの彼女の色んな表情を思い出してしまう。

一体俺はどうしてしまったんだ?
名もなきこの感情は。
俺が封印してしまった恋という感情なのか。
それとも…