食事を終え俺たちは店を後にした。
最後に食べた芽のはご飯と蜆の味噌汁も絶品だった。
久しぶりに体にいいものをしっかりと味わえた満足感で、俺は気分が高揚していた。

会計のとき、店主が彼女に何か言いたそうにしていたのが少しだけ気になるが…

「ごちそうさまでした。加賀見さんに奢ってもらってしまい申し訳ありません…」

「いえいえ。急に誘ってしまったし、すごく旨かったんで」

「お気をつけて…」

「あ、送ります」

「そんな!すぐ近くだし、大丈夫です!」

「夜道を女性一人で歩かせたくないんですよ。勝手ですけど、送らせてください」

彼女は逡巡していたが、渋々納得してくれた。

「ありがとう、ございます。じゃあ…お願いします…」

聞きたいことは山ほどあった。
でもそれは今、聞いてはいけない気がする。

彼女が気遣わないで済むように。
俺は当たり障りのない話題に終始した。

店を出てからおよそ十分くらい経ったころだろうか。
彼女は突然立ち止まり言った。

「ここで…結構です…」

彼女が言った『ここ』には家など建ち並んでいない。まだ大通りの途中だ。

「え?この辺りは家がないんですけど…」

「すぐそこの路地を入ったところなので…」

「お宅の前まで…」

「本当に!…ここで…」