「飛び魚なんて初めて食べました」

彼女はニッコリと微笑みながら続ける。

「私の地元では馴染みのある魚です。その竹輪のようなもの…野焼きというんですが、それ以外にも出汁に使う為に乾燥させたものは高級品で、蕎麦のつゆに使ったりもします」

「蕎麦つゆに?鰹ではないんですか…?」

「地元の蕎麦は蕎麦粉の割合が多くて鰹出汁だと上品過ぎて蕎麦の香りに負けてしまうんです。だからあご出汁を使います」

「地元というのは…どこなんですか?」

何気なくした質問だった。
だが彼女はさっきまでの明るい表情から一変した。

「それは…中国地方のある県、です…」

「中国地方。広島とか岡山?」

「…ごめんなさい。その話は…またいずれ、機会があったら、でいいですか…」

「え…と…はい。言いたくないなら…無理に言わなくてもいいんです…」

「加賀見さん…。ここを選んだ時点で…気づけば良かったですね…。すみません…」

「ほんとに!気にしないで下さい!」

「……」

彼女は所在なさげにウーロン茶をちびちびと飲んでいる。
そういえばさっきから食べているのは俺だけで。

「あの…中上さんも食べて下さい。さっきから俺一人で食べてますよ?」