座敷に上がり向かい合って座ると、彼女がメニューを開いて俺に差し出してくれた。

「お料理はおまかせしましたけど、何か飲まれますか?あ…ワインはありませんけど…」

「フッ…大丈夫ですよ。ワインじゃなくても」

「ここは日本酒と焼酎、ビールしかアルコールはないんですけど…」

「日本酒と焼酎はちょっと無理かなぁ…。ビールにします」

そこへ水のグラスとおしぼりを持った店主が入ってきた。

「おじさん、ビールと…、あたしはウーロン茶で」

「えっ?雪穂、日本酒飲まんのか?」

「…うん。今日は…やめとく…」

店主は何か言いたそうにしていたがそのまま無言で立ち去った。

今の話の流れで考えると、彼女はいつもは日本酒を飲んでいるのか…。

「日本酒がお好きなんですか?」

「えっ?…はい…」

「すごいな…。俺は日本酒で失敗したことがあって、それからずっと苦手で」

「無茶な飲み方をされたんじゃないですか?」

「実はそうなんです。成人式で飲まされちゃって…。お決まりの二日酔いですよ」

「飲み方を間違えると困った事態になります」

「仰る通りです」

俺がそう言うと彼女はクスッと笑った。