次の言葉を待っていたが彼女はそのまま口を噤む。

何かマズイことを言ってしまったのだろうか?
東京の出身じゃないのかって聞いただけだが…。

「中上さん…」

俺が声を掛けたところで彼女に遮られる。

「着きました。ここです」

見ると『呑み喰い処 暖々』と書かれた木の看板が掲げてある店の前だった。

縄暖簾とはまた…レトロだなぁ。

彼女は磨りガラスの填まった木の引き戸を開け中に入った。

「いらっしゃい…おう、雪穂…あれ!!」

店主は彼女の後について入った俺を見て、あからさまに驚いた。

「おじさんこんばんは」

「お、おう…」

「仕事の関係の方なの。そこのコンビニでバッタリ会って」

「そ、そげか…」

「ちょっとおじさん!今日は方言やめてよ!」

「あ、ああ…悪い…。いらっしゃいませ。いつも雪穂が世話になっとります」

店主はそう言って俺に頭を下げた。

「いえ、とんでもない!今日は無理を言って連れてきてもらったんです。お腹空いちゃって」

「はぁ、そげ…、いや、そうですか!なんかお腹にたまるモン作りましょか」

「ありがとうございます」

「おじさん、奥の座敷、いい?」

「ああ、ええよ。今日はノドグロのええのがあるけん、炙ろか?」

「そうなの?じゃあ、お願い」

「あとは…」

「おまかせでいいよ」

「了解」

砕けた雰囲気の彼女がまた新鮮だ。
地元の親しみ易さなのだろうか。
二人の間に流れる空気は家族のような感じだ。