「いえ…特には…」

「だったら…どうでしょう?とはいっても、俺、この辺りの店には明るくないんですけどね」

俺がそう言うと、彼女は少し俯いた。
何か考えているような素振りだ。

「居酒屋でも…いいですか?」

居酒屋?
彼女に不似合いなワードに驚いた。

「居酒屋…ですか?」

「あっ、ダメなら…別のところでも…」

居酒屋がダメなんじゃない。
なんとなくイメージと合わなかっただけで。

「いえ居酒屋でいいですよ」

俺がそう言うと彼女はうっすらと微笑みを返してくる。
今までに見た怒りの表情やら鉄仮面とは違う柔らかい微笑み。
本当の彼女はこういう表情をする人なのかもしれない。

並んで歩きながら俺は自分の感想を話した。

「でも、中上さんと居酒屋では雰囲気が合わないですよね。よく行かれるんですか?」

「…ええ。うちの近所で…。知り合いが営んでいるものですから…」

なるほど。
それで合点がいった。
居酒屋に誰かと行くような感じではないし、ましてやお一人様するのはもっと想像できないから。

「知り合いの方がやってるんですか」

「はい…。同郷の…」

「同郷…?て事は中上さんは東京(こっち)の出身ではないんですか?」

「あ…ええ…」