「ほんとに申し訳ありません。あなたは覚えていてくださったのに…」

「皆さん名刺を配っていらっしゃいましたから…」

「ああ…そうでしたね。中上さん、名刺は?」

「私はただの事務員ですから…持ってません…」

「あ、そうなんです、ね」

「なんか似てますね。加賀見さんと中上。一文字しか違わない」

彼女に言われてみて、そういえばそうだなと思う。

「確かに…漢字はどのように書くんですか?」

「真ん中の中に上下の上です」

「漢字だと全然違う」

「クスッ…。それはそうですね」

彼女の微笑。
初めて見るそれはなんだかとても新鮮に俺の目に映った。

「あの…加賀見さん、お仕事中なんですよね?すみません…お引き留めして…」

「いえ、仕事はもう済んだので大丈夫です」

「そう…なんですか?」

「はい」

「でも、また会社に戻られるんですよね?ここからだと遠いから…もう出られたほうが…」

やけに俺を帰そうとしているのが気に食わない。
俺はもっと話したいと思っているのに。
そのときの俺はすでに。
彼女にこの前のことを詰問したい思いなんてどこかへ飛んで行ってしまっていた。
ただ…
普通に彼女と話していたい。

「会社には直帰すると言ってあるので大丈夫です。それよりあの…中上さん、もしよかったら一緒にメシ行きませんか?」

突然誘うなんて自分のシナリオにはなかったけど。
俺の思いは素直に口から出てしまった。

「え…でも…」

「何か予定がありましたか?」

まさかそれはないだろうと見越して質問した。
約束があればコンビニになど来ていないだろうから。