だが俺は致命的なミスに気付いた。
あの女の名前がわからない。

勤めている会社は知っているが、プライベートな用件で訪ねるのは憚られる。
あの女は訪ねてきたのだから気にするのは変かもしれないが。
けれども。
女と男では違う。
男が待ち伏せなんかして、ストーカーに間違われでもしたら敵わない。

唯一、可能性があるのは。
この前俺が訪問した得意先の近くにあの女の自宅があるのではないかということ。
その可能性に賭けてみるしかない。

こういうときは営業の利点が最大限に生かせる。
幸い先週の雪もすっかり溶けているからもう心配なく出掛けられるだろう。

今日すぐに会えるなんて思ってない。
何回も通っていればそのうち会える。
気持ち的にはすぐに会えるほうがよかったが、気負い過ぎると失敗するから。
それくらい悠長に長期戦も覚悟して臨むつもりだ。

彼女が仕事から帰ってくるであろう時間を考えると。
十八時ごろか…。

俺はその時間に合わせて会社を出た。
主任には顧客を訪問してから直帰すると報告しておいた。

嘘をつくのはマズイから本当に顧客を訪問し、世間話だけして失礼する。

折角だからたまには飲みにでも、との担当者からの誘いをやんわりと断って。

俺は先日も立ち寄ったコンビニへ急いだ。