戻ってきた受付嬢が手にしていたのは見覚えのあるビニール傘。

あれは…

「お待たせ致しました。こちらです」

返さなくてもいいって言ったよな?
こんな傘、捨ててくれてよかったんだけど。
わざわざ会社まで持ってくるか?

「あの…加賀見さん?」

思考が錯綜して受付嬢を放置していた。

「あっ!申し訳ない。ありがとうございます」

そう言って傘を受け取る。
俺はその足で守衛室に向かった。

「おはようございます」

守衛室の小窓を覗いて声を掛ける。

座っていた守衛の一人が立ち上がって小窓を開いた。

「すみません。営業三課の加賀見といいますが。今朝私への届け物があったと思うんです。それを預かった方はまだおられますか?」

「営業三課の加賀見さん、ね?ちょっと待って下さいよ」

守衛は奥に消えて行った。

奥で何やら話し声が聞こえたかと思うと先程の守衛がもう一人を伴って戻ってきた。

「お待たせしました。この者が対応したそうです」

その人は初老の穏やかそうな守衛だった。

「あの…申し訳ありませんがこれを預かられたときの話を少し…伺えませんか?」

「あぁ…。今朝なんですけどね。あたしらが朝の交替する時間でちょっとバタバタしてたんですよ。そしたら裏口に若い女性が立ってて。声を掛けられて預けられたんです」