「初めまして。文学部三年の白川啓子です」

「どうも。経済学部三年の加賀見です」

結局。
俺は達也の懇願に負けて参加する羽目になってしまった。
目の前には噂のマドンナ、白川啓子が微笑みながら座っている。

確かに顔の造形は非の打ちどころがない。
肌も透き通るように綺麗だし、髪も艶のあるストレート。
好みの問題ではなく誰が見ても美人の部類に属している。
もちろん俺も美人だと思う。

最初の自己紹介から始まり、なんとなく無難な会話が続く。
だがその会話の端々に知性が伺えて彼女は見た目だけではないのだと思わされた。

思いのほか会話もスムーズで、弾むように進んだ。
時折達也が嫉妬なのか羨望なのかよくわからない視線を送ってきていたが、気付かぬ振りで彼女と会話を続けた。

会がお開きになり、若干名残惜しく思っている自分がいる。
今まで恋愛らしい恋愛をしてこなかった俺にしては珍しい。

大学に入るまでも常にモテてたけど、自分から好きになった女はいなかった。
適当に付き合ってそれなりに経験値も増えた。

が。
こっちが執着していないから途中で関係にヒビが入る。
彼女だからと俺を束縛したり、言い寄ってくる女たちを牽制している様を見るとどうしても気持ちが萎える。
元々そこまで好きじゃないから一度萎えた気持ちは加速度をつけて萎んでいく。

少しずつ俺のほうから距離を置いて、最後は破局。
だがすんなりとは納得してもらえず、修羅場に近い状態になるのも常だった。

女が前の男を完全に断ち切るのに一番効果的なのが新しい男。
そう思っていた俺は適当にハイスペックな男を近づけては難を逃れていた。