そうか。
降雪時や降雨時は路面とタイヤの摩擦抵抗が少なくなる。
タイヤが浮いたような状態ではむやみにハンドルを操作しても無意味だ。
大きくハンドルをきれば車の向きまでもが変わる可能性がある。

「わかりました。気をつけます」

「では…失礼します…」

女は再び頭を下げた後、俺に背中を向けた。

津々と降り続く雪はいつの間にか女の姿を消し。
俺は会社へ戻るためにアクセルを踏んだ。

運転しながら俺はあの女のことを考えていた。
雪の中、少しの躊躇いもなく立っていた女。
そこには戸惑いや、雪への恐怖心など微塵も感じられなかった。

まるで降る雪を喜び、楽しんでいるかのようだった。

でもそれは子供が無邪気にはしゃぐようなものではなく、慈しんでいるような愛おしむような…

そういう表現のほうが近い気がする。

いい大人が雪にそこまで愛着があるものだろうか…。
とにかく理解しがたい女だ。

あんなところで偶然再会するとは思ってもみなかったが。
これでもう二度と会わないだろう。

消化不良でイマイチ気分はよくないがあまり関わらないに越したことはない。