女はなかなか傘を受け取らない。
雪は情け容赦なく俺の体にも降り積もる。

「クシュンッ!」

「加賀見さん!わかりました!傘はいただきます…。ありがとうございます…。早く…車に乗ってください…」

やっとのことで傘を受け取った女は頭を下げてそう言った。

「じゃあ、気をつけて…」

「はい…。加賀見さんも…お気をつけて…」

運転席に乗りエンジンをかけて女の姿を確認する。
きちんと傘を差し、女はまだその場に立っていた。
俺はウィンドウを下げて女に言った。

「少し車内を暖めてから出ますので。どうぞ帰ってください」

「…はい…。雪道の運転、気をつけてください…。タイヤが…ノーマルのようですから…」

「えっ?」

「いえあの…スタッドレスではないですよね?」

「あ…」

なんでわかったんだ?

「カーブや坂道に出会ったら、スピードを出さずに小刻みにブレーキを踏んでください。もし…滑ってハンドルを取られそうになったら…反対側に切らずに少しずつ同じ方向にきってください。そうすれば真っ直ぐに戻りますから…」

え?
同じ方向にきったらそのままいっちまうだろ?

「そんなことをしたら対向車線に出ませんか?」

「雪道では…タイヤの摩擦抵抗が少なくなるので焦って反対側にきると最悪スピンします。だから元に戻すためには少しずつ同じ方向にきるんです…」