そのあとワインは赤に変わり、数種類の料理も堪能してそろそろ会計をしようと思ったところでオーナーが言った。

「お前、大丈夫か?」

「えっ?…ああ、ちゃんと払いますよ」

「バカ野郎。支払いじゃない」

支払いじゃない…って…
じゃあなんだ?

キョトンとする俺にオーナーは続けた。

「さすがに毎日通って来られちゃな。誰だって不思議に思うだろう。それがもう一月(ひとつき)だぞ?」

「……」

そうだよな…。
いくら客の詮索をしないオーナーでも怪訝に思うよな…。

「言いたくねぇ話なんだろうけどよ。いつまでも逃げてたって変わんねぇんだろ?」

「なんか…一人で家にいると…どうでもいいことばっか考えちゃって…」

「うん…。本当にそれはどうでもいいことなのか?それだけ考えちまうのは、実はどうでもよくないと思うけどな」

それは…
俺にはよくわからない。
なんであの女をいつまでも思い出してしまうのか。

だからってここに通ってたって何も変わりゃしない。
家に帰ればまた思い出してしまっている。

自分でも嫌になるがどうしたらいいのかわからないから…

「まぁ、いつかは変わるだろう。お前がそんだけ気にするほどだ。何か意味があると俺は思う」

オーナーはそう言うとそれきり黙った。
支払いを済ませて俺は店を後にした。