いつもオーナーは詳しい説明を省く。
ワインと料理を置いたらそのまま自分の仕事を続けている。

俺はグラスを持ち上げ、ゆっくりと香りを嗅ぐ。
フルーティーな香りが鼻腔をくすぐる。
一口含んでみると香りが更に拡がっていく。

香りだけだとシャルドネかと思ったが…
微かにハーブのような香りも感じる。

「シャルドネ…ですかね。ソーヴィニヨン・ブランも少し使ってる?」

「間違っちゃいねぇな。けどそれはソーヴィニヨン・ブランの方が多い。シャルドネは四割くらいだ」

えっ…?
シャルドネの香りを強く感じたのに。

俺の疑問は顔に出ていたのかオーナーは続けた。

「自然酵母で発酵させてそのまま自然に任せて作ってる。ふくよかな味だろ?ソーヴィニヨン・ブランの尖った部分は完全に中和されてるし、シャルドネだけのワインより香りが複雑だ」

正にオーナーの言うとおりだ。
果実味溢れる味わいの中にハッとするようなキレがある。

「それに合わせてこれな」

オーナーは白い大皿を俺の目の前に置いた。

サーモンピンクの生ハムの上に白くて丸いチーズがのせられている。
プロシュートと…モッツァレラか。

上にはオリーブオイルと粗挽きの黒胡椒がかけてあった。