何かが喉につっかえたような歯痒さを感じながらも俺は日常に戻るしかなかった。

仕事はありがたいことに目立ったトラブルもなく、変わらず順調だった。
だがそれが返って無駄な思考を助長する。
トラブルでもあればそれだけに集中して余計なことは考えなくて済むというのに。
こんなときに限ってそうはならない。

定時に仕事を終えて帰宅すると嫌でも記憶が呼び起こされてしまう。
そうならないよう、このところ毎晩行きつけのワインバーに通っていた。

そこは以前俺の前任者がオーナーとうまくいかなくて担当が変更になった店だ。
何度かお邪魔するうちオーナーと意気投合して、今やオーナーは上得意先となり、俺は常連客となっていた。

「こんばんは」

「いらっしゃい。今日も軽くなんか食べるか？」

「お願いします」

オーナーは調理師の資格も持っている。
ワインは料理とのマリアージュが大切だからワインだけ旨いものを揃えていてもダメだ。
そそれぞれのワインに合う料理も提供できなくてはならない。

俺の好みを熟知しているオーナーはまず、白ワインから始めた。