女はそう言ったが俺にはそれが嘘に思えた。
本条があのまま黙っているとは思えない。
絶対にコイツを責めたに決まってる。
けどだからって俺がどうにもできないんだからこれ以上尋ねようもない。

「では、俺はこれで失礼します」

そう言って再び踵を返した。

女の視線を背中に感じたが、振り返らず店の外に出た。

同僚に何か言われていたとしても俺には関係ない。
もう面倒事はたくさんだ。
それが今の俺の正直な気持ち。
どうせ二度と会わない相手だ。
得意先でもない。
そんな相手に労力を使うほど俺は暇じゃないんだ。

曲がり角まで一気に歩いてふと立ち止まる。
すでに書店からは少し離れた場所まで来ている。
そのまま振り返り書店の方角を見ると。

まだ女はさっきのところに立っていた…。

遠目から見ているというのに。
なぜかひどく悲しげで苦しそうな表情をしている。

錯覚か?
表情まではっきりとわかる距離じゃない。
なのに…
俺には女の顔が悲愴感で歪んでいるように見えた。