俺はそれだけ言うと踵を返した。

手に入れたかった書籍は今夜は諦めよう。それより一刻も早くこの場を立ち去りたい。

「ちょ、ちょっと!待って!」

マジかよ…
なんで呼び止めんの?

聞こえないふりで立ち去ればいい。
そう思ったのに…
俺は意思に背いて振り返ってしまった。

「なんでしょう?」

「あ、あの…ありがとうございました…」

「どういたしまして」

そして再び店の出入り口へと体の向きを変えた。
今度は何も言ってこない。
俺はそのまま歩き始めた。

「加賀見さん!」

どうして俺の名前、呼ぶかなぁ…
知らん顔できねぇじゃん…。

仕方なく振り向くと女は俺の至近距離まで来ていた。

「ちょっとだけ…宜しいですか?」

なんだなんだ?
こないだの続きなら遠慮したいんだけど?

「公共の場ですから手短にお願いします」

先日のバトルのような事は二度とごめんだったから先制攻撃をしかける。
女の瞳に再び怒りが宿ったように見えたがそれもほんの数秒で消えた。