「雪穂…それでも俺は…きちんとしたいんだ。君とこれから一生を共に…したいから」

「章悟さん…ありがとう…嬉しい…」

雪穂を抱き締める腕にさらに力を込める。
そのとき俺はふと外の静けさが気になった。

雪穂の体をそっと離し、カーテンを開けると窓の外には。
しんしんと降り積もった雪で一面真っ白に変わっていた。

「あ…いつのまにこんなに…」

驚いた雪穂が窓に近づきながら言った。

本当に…なんて神秘的なんだろう。
この圧倒的な白さ。どこにもない純粋な色。自然が作り出す無垢な色。
そして美しさの対極にある怖さ。
侮れば即命にかかわることもある。

だけど俺は今でも雪を見ると雪穂が頭に浮かぶ。
それはきっと名前のせいだけじゃなくて。
雪穂が雪のように美しく強く、しなやかだから。

「きれいだな…まるで雪穂みたいだ…」

そう言って雪穂をみつめると彼女は目を伏せ。
少しだけ照れくさそうに口を開いた。

「実はあたしの名前は…この雪のように強く美しくなれという両親の想いでつけられたらしいんです…」

「えっ…?」

やっぱりそうなのか…。名は体を表すとはよく言ったものだ。

「雪はおいしい水を育む。それから…雪穂の”穂”は…稲穂からとったそうなんです。日本酒を造るのに欠かせない米と水。自分たちが生涯かけてかかわっていくもの。それを…娘の名にしたんだと…」

「まさに酒蔵の跡取り娘につけるに相応しい名前だね」

「名前負けしてるような気もしますけど…」