目を瞑り、ひたすら祈る。
生きている間は縁の薄い親子だった。
何を言っても今更だけど…
俺がこれからの人生を真っ当に生きることが、親父への感謝であり。
孝行であると。
思っている…。

いつか俺が人の親になる日が来たらそのときは。
親父。
俺は間違いなくアンタを思い出すだろう。
親父とは違う愛情のかけかたになるかもしれないし、親父と同じように、不器用な愛情のかけかたになるかもしれない。

でもどちらにしても俺のすべてを懸けて大切な存在を守っていくだろう。
最後に見せたアンタの愛情は…
きちんと俺の心の深い場所に届いたから。

だから俺は変われた。
自分自身を誇れる、愛せる自分になれたと思う。
親と俺の軋轢が。
数多の負の感情が。
払拭されたんだと思う。

「章悟さん…」

雪穂の声で自分の世界から現実に戻った。

「あ…なんか…瞑想してたかも、俺」

「フフ…。お父さんに…お話できましたか?」

「ああ…。生きてるときに言えなかったようなことをたくさん語りかけたよ…」

雪穂は柔らかく微笑んでうなずいた。

「行こうか…」

「もう…いいんですか?」

「うん」

いつまでいたって名残は尽きない。
とてつもない郷愁に浸ってしまうだけだ。

親父。またな。
見ていてくれ。俺はこれからだ。
ここからさらに飛躍する。

心の中で親父にそう告げ、雪穂の手を取って立ち上がった。