「世話になった、ありがとな」

玄関先で折原に挨拶する。

「いえいえ。なんのお構いもできなくて」

雪穂も頭を下げて礼を言う。

「本当にありがとうございました…。また宜しかったら是非遊びにきてください」

「また…行きますよ、必ず」

「旨い酒たっぷり飲ませてやるからな」

「楽しみにしてます」

多少後ろ髪を引かれなくもなかった。
が、今の俺がコイツのためにできることは何もない。
だから今は。
このまま別れる。けど…いずれコイツには恩返しをしたいと思っている。

車に乗り込んで親父が埋葬されている霊園へ向かった。
都心から少し離れたそこには一時間ほどで到着した。

霊園内は結構な広さで、迷子になってしまいそうだ。

ここは手ぶらでもお参りできるように、駐車場から入り口へ差し掛かるところに花や線香を扱う売店が設置されている。
俺はそこで供花と線香、ライターを買ってうちの墓がある場所まで雪穂を案内した。

「加賀見家先祖代々之墓」と刻まれた墓石の前に立つ。
途中の水場で水を入れたバケツと柄杓を借りていた俺は早速墓石の上から水をたっぷりとかける。

親父…、来たよ。
心の中で親父に挨拶する。
隣で神妙な顔をしている雪穂も俺に続いて柄杓で水を掬い、墓石にかけた。

花を供え、線香を立てて。
俺と雪穂は墓の前でしゃがんだ。

掌を合わせ静かに目を閉じる。
最後に会った時の親父の笑顔が…
脳裏に浮かんだ。