「本当に…不思議ですね。東京育ちの章悟さんがまさかあんな田舎で満足できるなんて」

「え?」

今さら何を言い出すのかと思えば。
それは君がいるからに決まっているでしょうが。

「だって…周りには遊興施設もないし、テレビのチャンネルも少ないし冬は寒いし…」

「ちょっとちょっと、どうした?いきなり地元を悪く言うなんて雪穂らしくもない」

俺がそう言うと雪穂は歩みを止めた。
何かしらの不安が再び彼女を襲っているのか?
俺も俄かに不安になって来た。

「雪穂…何か…心配事でもある?」

雪穂の気持ちを解すように尋ねる。

「え…っと…やっぱり少し、不安、です…」

「それは…うちの母親と姉に会うこと、が?」

雪穂はコクンと頷いた。

そうか…。そこまで心配して万が一病気が再発してもいけない。
いっそのこと、墓参りだけして会うのはやめたっていい。
俺にとっては雪穂の体調以上に優先する事なんてないのだから。

「墓参りだけして帰るか」

「えっ…?」

「雪穂がしんどい思いをするなら会う必要ないよ」

「でも…」

「病み上がりなんだし、精神的に重圧をかけたくない。大丈夫だよ、あの人達にはなんとでも言えるから」

「本当に…大丈夫?」

「心配いらないって。俺こそ君をそこまで追い詰めてるって気がつかなくてほんとにごめん」

「章悟さん…」

「そろそろ戻ろっか」

俺は雪穂の手を優しく取って、ゆっくりと歩き始めた。