「折原…。お前さ。自分を大切にしろよ…」

「え…。いきなり何言ってんすか、加賀見さん…」

「お前のことをさ…大切に思ってる人間はたくさんいる…。だからお前自身にも自分を大切にして欲しい。それだけだ…」

「加賀見さん…」

「一人で全部背負うな。誰かを頼れよ…。俺もいつだって…待ってるから」

「そんなこと言って…また追い返さないでくださいよ…」

「しつこいな…お前も…」

俺たちはフッと笑い合った。
これからもきっと…お互い必要になれば頼り合う関係でいたい。
そう願いながら折原と心ゆくまで飲み明かした。

翌日は朝から緊張している雪穂の気持ちを解そうと。
早起きして近所を散歩した。

「やっぱあっちに比べると空気が不味いな」

「えぇ?」

雪穂はまだ緊張が解れていないのだろう、足取りがどことなく重い。

「なんかさ、澄んでないよな」

「そう…かな?そんなに感じないけど…」

「明らかに違う気がするけどなぁ…」

雪穂は感じないのだろうか…歩いている体に纏わりつく時の、息を吸い込んだ時の空気の違いが。
不思議に思いながら歩いているとふと雪穂が思いついたように言った。

「もしかしたら章悟さん…、蔵で仕事しているから敏感になったのかも」

「え?そう、なの?」

「蔵の中は雑菌対策が厳しいでしょう?それに温度管理も徹底してますから。長い時間過ごしていたら章悟さん自身が肌で感じる空気の違いがわかったのかもしれませんね」

「そっか…」

確かに雪穂に言われる通り蔵の中は外に比べて空気感が違う気がしていた。
室の中は湿度も温度も高いが、蔵全体はひんやりしていて空気が清浄だからだろうか。