俺は慌ててアピールする。

「うちの一押しの純米大吟醸、神の剣です!兵庫県産山田錦を百パーセント使用して、三十五パーセントまで米を磨いて丹精込めて作り上げた銘酒です!」

「どうぞ、宜しかったら」

雪穂も隣で笑顔を振りまきながらカップを配っている。
次から次と人が集まってきて。
それがまた人を呼ぶ相乗効果となった。

気が付けば今日用意した分がほとんどなくなっていた。

ふと我に返り隣の人にお礼を言わなければと思い出した。
隣の酒蔵の若い男はすでに片づけを始めていた。

「あっ!あのっ!ありがとうございました!あなたが声を出してくれたおかげでうちの酒。たくさんの人に飲んでもらえました!」

「…ああ…いえいえ。オタクに集まった人たちがうちのも飲んで行ってくれたので。うちも助かったんです」

「でも…こういう場所ですから…、皆ライバルでしょう?それなのに…」

「まぁ…俺も最初のころはね、あなたみたいに闘争心剝き出しでやってましたよ。でもね。今の時代。そんなやり方をしても誰も気付いてくれないんです。今は嗜好が多様化してるでしょ?要は旨い酒なら売れる時代なんです。ちゃんとポリシーを持って造った酒はね。だからライバルを蹴落とそうとか思ってないんですよね」