「こんにちは!」

緊張マックスの俺にデカい声で挨拶してくる男がいた。
法被に隣の酒蔵の屋号らしき物が印刷されてる。
隣の?

「どうも…」

うまく挨拶できない。

「オタク、初めて参加?」

「え…と、俺は…初めてです…」

「そうかぁ…緊張するよね」

「あの…あなたは何度か?」

「うん、俺ね三回目。でもなかなか…これだけの蔵が集うとね。思ったほど営業できないんだよなぁ…」

ムム…やっぱりそうか…。
こっちからアピールしないとダメそうだ。

「それでは皆様。そろそろ開場の時間となりましたので宜しくお願いします!」

会場にアナウンスが流れる。
いたる所の扉が開かれ、ドッと人が押し寄せるように入って来た。

うわぁ…すごい…。
久し振りに大勢の人。すっかり田舎生活に慣れた俺にはちょっと…
しんどいなぁ…

参加者らしき人達は皆、自分のお目当てらしきブースに向かって行っている。
なんとかうちの蔵にも目を留めてもらわないと…

試飲用の小さい透明なカップにおススメの酒を入れて盆に載せ、一歩前へ出た。

そのとき。

緊張し過ぎていたせいか、床の絨毯に足を取られてしまい。
見事に転んだ。
そして手に持っていた盆から…酒が零れ落ちてしまった…。