長旅で疲れていた俺達に店主は腕を揮ってたくさんの料理を出してくれた。
あまりの旨さに酒を飲みたいところだったが。
明日のイベントに備えグッと我慢した。

「もう一泊すりゃええが」

店主の気持ちはありがたいが。
イベント会場からは距離がありすぎて。

「すいません…会場から遠いんで…友人宅にお願いしてるんです」

「まぁ…なかなか来れんだろうがまたおいで」

「ありがとうございます…」

翌日。高橋さんに厚くお礼を言って俺と雪穂はイベント会場へ向かった。

今回のイベントは全国から中小規模の酒蔵を集め広く交流することを目的としているらしい。大手以外の蔵も販路を拡大できるかもしれない好機。
俺の腕の見せどころになる。
会社で培った営業力。
それから蔵で修行して得た知識と技術。
それを駆使して頑張る!

俺と雪穂の未来と。
うちの蔵の繁栄のために。

「章悟さん…。あんまり意気込み過ぎないで…。最初から飛ばすと後からしんどくなっちゃう…」

「雪穂…。ありがとな、心配してくれて。でも折角のチャンスを無駄にしたくないんだ」

「別に今年だけじゃないのよ?これからだってイベントはあるし。東京(ここ)だけじゃなくて色んな場所でやってるの。そういうのにも積極的に参加していけば…」

「雪穂。今日は俺にとって初めての大舞台なんだよ。失敗できない。俺の実力を見せてやるから」