雪穂に今日の親方の話を聞かせる。

このところの俺たちは。
籍は入れてなくても事実婚状態で。

この離れで雪穂と一緒に寝起きを共にしている。
離れで同棲…状態である。

最初は母屋で親方に会うのがひどく照れくさかった。

いくら親方が後押ししてくれたからといって正式に夫婦になっていない俺たちが一緒に生活している事実に若干の後ろめたさもあった。
でも親方は俺のために。
これからこの酒蔵を背負っていく俺のために雪穂という最愛の女性を傍に置くことを許してくれたんだと思う。

親方の期待には絶対に応えたい。
いつか…
今以上にこの蔵の酒を世間に知ってもらいたい。
伝統を重んじながら新しいことにも挑戦したい。

俺の造りたい酒も。
造っていきたい。

サラリーマン時代にここまで自分のやりたいことを思い描けただろうか?

答えは”ノー”。
会社に雇われているうちは安定はあっても自由はない。
どこまで行っても会社という枠からは抜け出せない。
男の責任を重視するなら当然冒険はできないが。
やはりどこかで男という生き物は挑戦者でありたいと、冒険者でありたいと、願う生き物なのではないか。

この酒蔵で俺はそういう生き方ができるのだと学んだ。
これこそが男の生き様を見せる仕事だと俺は思っている。