「全国日本酒フェスタ?」

親方から手渡されたパンフレットを見つめる。

「そげだ。毎年全国の蔵から自慢の酒を持ち寄る。そこには仕入れ業者や小売店も集まるけん。いい宣伝にもなぁしの。他の蔵の人らとも交流できて。お前にはきっといい経験になると思う」

それは…是非行ってみたい…。
俺と同じような経歴の人もいるだろうし。
苦労話なんかも聞けるだろう。

「行きたいです…、行かせてください!」

「うん…。うちの営業用の車を使うたらいい。商品も載せないけんからの」

「え…」

「そいで…アイツの…暖々にも…何本か下ろして。親父さんの墓参りとお袋さんと姉さんにも会うて来ぅだわ」

「親方…。暖々のことはわかりました。でも…仕事で行かせてもらうので家族にはまた別の機会で。公私混同になりますから…」

「ええわの。雪穂を連れて墓参り行って…紹介して来んか。自分の嫁だろうがの」

自分の…嫁…?

「あの…親方…それって…」

「そのつもりだないかや?」

「そっ…そうできれば…嬉しいって…」

「いつでも…お前らがええと思ったら…。ワシはそれでええ」

漠然と思い描いていた、雪穂との将来。
それが今。
親方からはっきりと許された。

「あり、がとう…ございます…。もう少し…俺が…この蔵にもっともっと貢献できるようになったら…」

「フッ…そげって言うと思うたわ…。今すぐでもええと言っても…聞かんやろとは思うとったがな」

「すいません…」

「いや…職人ならば…それぐらいでええ。拘りを捨てたら職人でなくなるけん…」

「それから…俺の母と姉に会うのは…雪穂さんの体調に合わせて、と思ってます…」

「加賀見…だんだん…」

親方が方言で「ありがとう」と言ってくれた。その言葉の重さと温かさに俺の胸が締め付けられた。