そして今年も無事に酒を仕込み終えたころ。

親父が静かに…
逝った。

知らせてきたのは母と姉。
電話ではなくメールで、だった。
それも葬儀が終わってから。
俺はなぜ死に目に間に合うようにしてくれなかったのかと二人を詰ったが。
親父の遺言だったから…と二人に言われて…

親父が俺の仕事の邪魔にだけはなりたくないと、今わの際にそう言って。
俺には知らせなかったのだと…聞いた。

親父の気持ちが…俺に対する親父の愛情が
心にずしんと響いた。

落ち着いたら雪穂を連れて墓参りだけはさせてもらおうと思っている。
そのとき母と姉にも会えれば。

でも雪穂に極度の緊張を強いるのは不安だから。
彼女の体調によっては無理に会わせるつもりはない。

ただ、雪穂は時折懐かしそうに暖々の店主の話をする。
思えばあの人には散々世話になったのに荷物を送ってもらった時に連絡しただけで放置していた。
きちんと会ってお礼を言わなくちゃな。
きっと驚くぞ。雪穂が俺の気持ちを受け入れてくれたと知ったら。

うちの酒をたくさん持って行きたいけど…。車じゃないから無理か…。

そんな事を考えていると親方から、東京で開催される日本酒フェスタに行ってみないかと打診された。