かくして俺は…
積年の想いをやっと実らせることができたのである。

でもまだ仕事では半人前の域を出ていない。
雪穂と一緒にならせてもらうに足るだけの実績を積みたい。

仕事で誰からも一目置かれるようになって雪穂の相手として認められる。
それは人から認められるのではなく。
決めるのは俺自身。
自分が納得しなければ周りがいいと言ったとしてもダメだと思う。

でも急いではいけない。
ゆっくりでいいから俺の技能、技量に合わせて少しずつ範囲を広げていければ。

幸い親方も頭もその辺りは熟知されていて。
見込みがなければそのままだが、できると見込んだものには飛躍のチャンスを与えてくれる。
俺だけじゃなく蔵の皆誰もが自分次第でチャンスを掴めるようになっている。

だから俺は皆と切磋琢磨してお互いに成長し合える仲間として。
ここで日々奮闘を続ける。

今年の新酒の仕込み前。
俺はとうとう追廻から昇格した。
昇格といっても具体的な役回りが変わったんじゃない。

頭について、すべての工程を少しずつ経験させてもらうことになった。
メインは追廻。
それでも一日の中で一ヶ月の中で一年の中で。
その時々で一番手が掛かる工程を手伝わせてもらえるんだ。

緊張しないといえば嘘になる。
どの工程も少しのミスも許されないから。
でも緊張だけじゃなく期待もある。
楽しみで仕方がないのもまた事実だ。