だが。
長く雪穂一筋を貫いていた俺には忘れていた。

まさかこんな急展開を想像していなかったから、それは仕方ないんだけど。

突然動きを止めた俺に雪穂が不思議そうに瞳を揺らした。

「ごめん…」

「加賀見さん…どうして…?あたし…やっぱりダメです、か?」

一気に悲しみの色を纏い始めた雪穂の、誤解を解こうと必死になる。

「違う!絶対に…違う…。そうじゃなくて…大切なモノが今。ここにないんです…」

「え…?」

「あなたを大切にしたいから…だから…」

「あ…」

恥ずかしいけど男としての責任は全うしたい。
用意していないのがカッコ悪いわけじゃない。
俺が途中でやめたのは苦渋の決断であり、かつその理由も正直に言わなければ彼女はまた傷ついてしまうから。

「ごめん…明日の夜…もう一度」

「わかり…ました…」

それから俺は。
てっきり母屋に戻ると思っていた雪穂がそのまま疲れ切って寝落ちしてしまったのを恨めしく見つめながら。
嬉しいのか虚しいのかよくわからない朝を迎えるのだった…。

そして翌日は。

朝食を母屋で摂っている間も妙に落ち着かなくて。
親方と目を合わせられず挙動不審な人物になっていた。

藤原さんの手伝いをすると張り切って行った事務所でもその挙動不審は続く。
でもここでの俺は親方に対する気まずさが原因ではなくて。
今夜のことを想像して落ち着けなかったという…

そういうわけで…