家に戻り事務所に挨拶に行くと。
藤原さんが涙で迎えてくれた。

今日は疲れているだろうと思い、蔵の皆には挨拶しないままだが。
明日には改めて報告するつもりだ。

母屋に入り親方の部屋の前で声を掛ける。

「親方…戻りました…」

「おぅ…すまんだったの」

雪穂が襖を開ける。

「お父さん…ただいま…」

「お帰り…随分顔色がようなっとる…」

「うん…」

「薬がよう効いたか?」

「えっ?」

親方の言葉に雪穂が驚いている。今のは…冗談を言ったりしない親方だけど、今のはもしかして…
あの医者と同じような…意味合いで言ったのか?

「加賀見…悪かったな。面倒かけた」

「とんでもないです…。元はと言えば原因は俺なので…申し訳ありませんでした…」

「いや。お前は悪うない。気にせんでいい。それで…親父さんの具合は?」

俺は雪穂に説明したように親方にも説明した。
親方も複雑な心境のようだったが。
俺の決断を尊重してくれた。

今日は祝いだから寿司でもとろうと親方に言われ。
十八時に食堂でと約束して俺は離れに戻った。

雪穂はそのまま親方の部屋に残っていた。
きっと親子水入らずの話があるんだろう。
それが俺自身も関係しているだなんて露ほども思わず。
俺は呑気に離れに戻った。