その後の医者の動きは早かった。
ワゴンの上に載せられた小さめのノートパソコンになにやらパチパチと打ち込み。
担当の看護師を呼び退院許可の指示をテキパキと出す。
次は薬剤師を呼び処方箋を出す。
続いて事務職らしき制服を着た女性がやってきて。
彼女にも退院の際の支払などの事務的な事柄に関する指示を出していた。

ここまででザッと三十分弱。

「あの…先生…お世話になりました…」

雪穂が礼を言うと。

「退院の用意ができましたらコールで看護師を呼んでください。そのころには薬と計算もできあがるようにしておきます。あ、精算は今日でなくてもいいですからね。次回の受診時でも大丈夫です」

簡潔に必要事項だけを伝え、颯爽と病室を去って行った。

「フゥ…」

緊張したのか雪穂が大きなため息を吐いた。

「疲れた?急に決まったし…」

「いえ、大丈夫です…。家に帰れると思ったら気が抜けちゃって…」

「それならいいけど…。にしてもアイツ。感じ悪ぃな。あんなんが主治医で大丈夫だったの?マジで今日退院できてよかったわ。あんなヤツに雪穂さんを任せとけるかっての…」

最早独り言と化している俺の戯言を聞きながら。
雪穂が笑顔になった。

「どうしたんですか?加賀見さん…。あの先生はそんなに悪い人じゃありませんよ?」

「君がそう言ってる時点で俺にとってアイツは悪人です」

きっとアイツは俺と同じタイプ。
そういうのって直感でわかるし。
だから相容れないって思うんだけど。