「ご主人ちょっと」

「へっ?」

「ああ…まだご主人じゃなかったっけ?そういえば…中上さん、配偶者の欄は”無”になってたな。ごめんごめん。僕の早とちり」

なんだかなぁ…
言い方が全部嫌みにしか聞こえねぇんだけど?

忘れてたとか言ってるけど、絶対覚えてる。
覚えてるのにわざと忘れたフリしてる。

まぁ…こんなふうにひねくれて考える俺も相当性格悪いかも、だけど…

「主人じゃ…ありません…」

雪穂の声がか細く流れる。
悔しい俺は咄嗟に口を挟んだ。

「もうすぐそうなるんで。主人だと思ってもらって結構です」

言い切った。あぁ爽快。

そんな俺を見て医者はまたもやニヤリと笑った。
なんかバカにされてるような。
そんな印象を受けるんだけど。それも俺の被害妄想?

「それでは話が早いです。主治医としての見解をお話したくてね」

望むところだ。受けて立ってやる。

「お願いします」

「バイタルも安定しているし、睡眠も食事もまぁ問題ない所まで回復しましたから。そろそろ退院されて後は通院でも大丈夫でしょう」

ヤッタ!退院できる!

「ありがとうございます…。それで具体的にはいつごろ退院できますか?」

「うん…そうだね。よければ今からでもいいけど」

えぇ!?マジかよ?
そりゃ俺的には今のほうが嬉しいけど…肝心の雪穂はどうだろう?

「雪穂さん…どうします?」

「帰り…たい、です…」

雪穂がそうしたいなら何の問題もない。

「あの…本人も希望してますんで…お願いします…」

「わかりました」