結局。従業員全員から怒りをぶつけられた竹下さんは店から出ていった。

その後狭い事務所内で蔵人達はまだ収まっていないのか、皆が口々に怒りを露わにした。

その中身はすべて。
雪穂と加賀見を庇う内容であった。
雪穂は思った。
加賀見が人生を懸けてこの土地でやってきたことが。
ようやく実を結んだのだ、と。

少なくとも彼の同僚は。
皆彼を理解してくれている。受け入れてくれている。
そして…
酒蔵という特殊な環境の中で。
一緒に働いている者同士はまるで家族のように。
お互いを想い合い、助け合う。
昔のように皆で住み込んで造ってはいなくても。
その伝統は脈々と。
受け継がれている。

雪穂は感動で胸が震えるのと同時に。
色んなことが一度に起きてそれを受け止めきれずに。
部屋の中で倒れた…。

その音にいち早く気付いた親方が。

「藤原さん。小部屋に…誰かおる…」

と言うと。
それを聞いた藤原さんが慌てて小部屋に入った。

「お、親方っ!お嬢さんがッ!雪穂さんがッ!」

大量の汗をかき、呼吸も覚束ない雪穂は。
そのまま救急搬送されたのだった。

**********

雪穂の話を聞き終えて大きく息を吸い込む。
クソムカつくそのジジィは問題外だが。
蔵の皆のあったかい気持ちは。
本当にありがたくて。
ここで働かせてもらってよかったと…
ずっとここで働きたいと
思った…。