ということは必然的にもうひとつのベッドに彼女がいる。
俺は深呼吸をしてからカーテン越しに声を掛けた。

「雪穂さん…いらっしゃいますか?加賀見です…」

ギシッと。ベッドが軋む音がした。

「雪穂さん…カーテン開けてもいいですか?」

俺がカーテンに手を掛けると。

「ダメです!」

と、彼女の大きな声で遮られた。

その反応は俺がいかに彼女を苦しめたか。
それを如実に物語っていて。
胸が苦しくなった…。

「雪穂さん…申し訳なかった。なかなか連絡できないままで…何日も音信不通で…不安にさせてごめん…」

雪穂からの返答はない。
うっすらと聞こえる息遣いだけが。
なんとか耐えている彼女の存在を示している。

彼女の信頼を取り戻し、心に平安を取り戻してもらうためには…
俺が誠心誠意彼女の心に寄り添うしかない。

「言い訳になるけど…父がなかなか手術する気にならなくて…精神的に俺も参ってしまった…。毎日続く攻防の中…どんどん気力が萎えていった…。君が過去のトラウマに再び悩まされていたなんて…まったく気付かなくて…。俺は自分のことだけで精いっぱいで…情けないよ…」

彼女から何も応えが返ってこなくても。
俺は語り続ける。
彼女へのこの気持ちに嘘はないから。
純粋なこの気持ちだけは疑われたくない。

「あそこにいる意味がないと悟って。戻る決心をしたんだけど…すでに君は病気を再発していたんだね…。俺の認識不足だった。まさかそこまで君を追い詰めていたなんて…。君を守るって誓った俺自身が君を傷つけてしまうなんて…。どうしたらいい?どうすれば…君の苦しみを和らげることができる?」

もう必死だった…。
何が何でも雪穂を救いたい。
俺が招いたこの状況を。
俺の手で解決したかった。